令和初のNHK技研公開。新しい時代の放送技術の研究成果を体感し、『未来のメディア』を学ぶべく、NHK技研公開2019に行ってみました。
開催期間は5月30日 (木) ~ 6月2日 (日) 午前10時~午後5時(入場は終了の30分前まで)です。
NHK技研は3か年計画(2018-2020年度)を掲げています。
2020年より先の2030~2040年ごろを見据えた新しい放送技術とサービス創造を目指しているんです。
NHK技研公開2019のテーマは3つ。
- リアリティーイメージング(より臨場感・実物感の高いコンテンツを実現)
- コネクテッドメディア(インターネットを活用して番組制作やユーザ体験を向上)
- スマートプロダクション(AIにより効率的に番組を制作)
今年はリアリティーイメージング(AR、VR)に特に力を入れているように感じました。
今回、技研公開の基調講演を聴いて『未来のメディア』について学んできたので、ご紹介します。
NHK技研公開とは?
NHK技研公開とは、NHK放送技術研究所(技研)の研究成果を一般に公開するイベントです。
NHK技研は東京都世田谷区にあります。
住所:〒157-8510 東京都世田谷区砧1丁目10−11
参加費は無料。
令和初の技研公開のテーマは
ワクからはみ出せ、未来のメディア
従来のテレビの『ワク』を越えた視聴スタイルを実現する技術や放送サービスをより便利に楽しめる技術など『未来のメディア』がいっぱい。
まさにワクワクするものばかりでした。
技研公開の基調講演を聴いてみた
今回の基調講演は2つ。
- 身体の未来 拡張現実感から人間拡張工学へ
- 空間表現を広げる視覚のしくみ
基調講演:身体の未来 拡張現実感から人間拡張工学へ
1つ目のご講演発表者は東京大学 先端科学技術研究センターの稲見教授。
バーチャルリアリティー(VR)という言葉は平成元年に商用VRシステム『RB2』の発売と共に広まり大きなブームとなった。そして平成から令和へと移る中で再びブームを迎えている。当初は限られた研究者・技術者により支えられ、VRをいかに生成するかという点が研究対象となっていた。現在は頭部搭載型ディスプレーを個人が購入できるほど機器が安価になり、研究も「VRの研究」でなく「VRで研究」に変わりつつある。そんな中、講演者は空間のバーチャル化でなく、その補完関係にある身体のバーチャル化に着目し、研究を進めている。
本講演では、VR・ロボット技術を用い身体能力を拡張する人間拡張工学とともに、身体の可塑性に着目した『自在化身体』プロジェクトの概要を紹介する。歴史を振り返ると農業革命、産業革命などの社会革命は、必ず身体観の変化を伴ってきた。現在まさに渦中にあると言われている情報革命によりわれわれの身体観はどのように変化するかを展望するとともに、これが放送の未来へ与える影響について論じたい。技研公開2019 -講演-より引用
拡張現実感とは?
VRそのものの研究は1990年代から盛んに行われていたようです。
今はVRをどう使うかが重要とのこと。
IoT(モノのインターネット)がどんどん発展し、空間の情報化が進んでいます。情報革命(Society 5.0)とも言われています。
ここで興味深かったのは、「環境」と「能力」の話。
「環境」が変わると「能力」が変わる。これは言い得て妙だと感じました。
ある場所ではそれが不利になることでも、環境が変われば有利になることもある。
逆も真なり。
なるほどなぁと納得。
そして、シニアこそVRだそうです。
普段動きの少ない高齢者もVRの綺麗な映像を360度観たくて思わず立ち上がって動いたり、あたかもその旅行先に行ったような体験が出来る。これってすごく元気になるし、モチベーションも上がっているそうです。
そうそう。今のVRってピントが固定されていて、むしろ老眼に優しいそうな^^
もう一つ。けん玉できた!VR。
VRを使って、成功しやすい環境を用意してだんだんと慣らしていく。
人間だもの。失敗ばかりじゃ続かない。だんだんとスローな世界で慣らしていって、実世界と同じスピードに徐々にしていく。こうすることで、出来るようになるんです。
アスリートの場合は、VR空間を速くすることで、現実世界が遅く感じられる、そんな活用方法があるそうです。
『能力』は人と人、人と環境との相互作用の中に存在するんですね。
人間拡張工学とは?
身体化プロセスにおいて、身体部位の認知、操作による学習、これを工学的に設計することで『身体性の編集』が可能になります。
身体・行動のシステム的な理解に基づき、VR・ヒューマンアシスティブロボット・ウェアラブルコンピューティング・脳情報デコーディング・機械学習などを用いて、人間と情報環境との関係性を柔軟に設計する、これが『身体性の編集』。
自在化身体として、5つ取り組まれているそうです。
- 超感覚
- 超身体
- 幽体離脱・変身
- 分身
- 合体
どれも魅力的なものばかり。
講演では、阿修羅像のように『第3の腕』をロボットアームで追加し、足で操作することで、あたかも自分の腕が6本あるように認知されていく、そんな取り組みをご紹介されていました。
今まで出来なかったことが出来ると嬉しかったり、楽しかったりしますよね。
VRの未来は社会がバーチャル化し、VR世界が多元化し、さらに身体のバーチャル化も進んでいきます。
今はテレビ等の画面(ディスプレイ)を見ているだけですが、『身体』を通じた新たな世界が待っています。
まさに未来って感じですね!電脳コイルの世界がすぐそこに!?
基調講演:空間表現を広げる視覚のしくみ
2つ目のご講演発表者は東北大学 電気通信研究所 所長の塩入教授。
テレビを始めとした映像技術は、視覚特性に大きく依存している。例えば、色の表現が基本的に3原色で十分であるのは、人間の視覚が3つの光受容体を基礎に色を見るからであり、静止画の連続提示が動画として見られるのは、それが実際の連続的運動と同じ効果があるからである。立体映像表現においても、2つの眼の網膜に実際の3次元物体を見たときと同じ像を映すことができれば、当然、観察者は実物と見分けられなくなる。このような事実は、情報伝送・表示技術が、本質的に人間の特性を考慮したものであり、このしくみを理解することと情報技術の進展がともにあることを意味している。つまり将来の映像技術のさらなる発展には、人間の視覚あるいは感覚、知覚、認知のより深い理解が重要であるといえる。
本講演では、映像技術における人間の視覚特性の関連についてまとめるとともに、行動や身体との関わりなども含め、最近の視覚や他の感覚の認知過程の研究から、従来の枠を超え空間表現を広げる手がかりについて考えてみたい。技研公開2019 -講演-より引用
視覚とは?
キーワードは『メタマー』。
メタマー?初耳です。
『メタマー』とは、同じとみなせる違うもの。なぞなぞみたいですね。
視覚特性と画像技術として、そこに在るものを画面に映した場合、それを同じとみなすこと。
専門用語でいうと、『条件等色』。
たとえば照明を変えると、異なる色に見える。ただし、ある条件下では同じように見える。これを『メタマー』といいます。
ここでのポイントは、どうしたら『同じ』とみなせるか?
人間の視覚は3色性(青、緑、赤)であり、網膜の光受容体にはS、M、Lがあります。
そして、色の表現は網膜の3種類の光受容体の応答が同じであれば同じ色に見える。つまりモノの持つ分光分布は違う場合でも、人間の目(網膜)の光受容体の応答が似ていれば、それは『同じ色』と認識するということ。
画素の細かさ(空間解像度)についても、人間の視力には限界があるので、ある程度の解像度があれば、それは『同じ』とみなせるそうです。
空間表現の拡張とは?
視覚とは固定したディスプレイを見るためにあるのではなく、注意、視線、行動によって能動的に周囲を探索するものである。
たとえば、自分の部屋やいつも通る道は無意識のうちに覚えているそうです。あたかも後ろに目があるかのように自分を取り囲む3次元表象を無意識に獲得しているんです。
空間表象とは、脳の中の空間表現であり、
- 3次元情報
- 多感覚情報
- 行動情報
- 身体情報
など、多様な『メタマー』を利用することで、未来のメディアは高度で豊かなものにできると塩入先生はまとめていらっしゃいました。
結構専門的で踏み込んだ内容でしたが、なかなか興味深かったです。
まとめ
NHK技研公開では、未来のメディアを展示していました。
VRやAR。
人間の認知だったり感覚だったり、人間の特性を知る必要があります。
VRをどう活用していくのか、世の中をどう便利に、そして豊かにしていくのか。
NHK技研公開の基調講演ではVRには無限の可能性が感じられる、とても興味深くワクワクするものでした。
これからのVRの発展がとっても楽しみです。貴重なご講演ありがとうございました。
5月30日 (木) ~ 6月2日 (日) 午前10時~午後5時(入場は終了の30分前まで)
会場はNHK放送技術研究所:東京都世田谷区砧1-10-11
土日(6/1,2)は成城学園前駅からシャトルバスが出ていて、入場無料です。
子供も大人も未来のメディアが楽しめてオススメです♪
おまけ。
アンケートに答えたら、ウェットティッシュとクリアファイル、チコちゃんシールが貰えました♪
展示についてはこちらの記事をどうぞ。
▶令和初のNHK技研公開2019 AR、VR、3D体験(展示編)
▶令和初のNHK技研公開2019 新4K8K衛生放送ってどう観るの?
▶令和初のNHK技研公開2019 4K8K地デジ放送っていつから開始?
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▶5G(ファイブジー)ってなに?いつから始まってどうなるの?
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